(2017年)添付意見書5「宗教学者・大田俊寛氏の意見書全文(2017年の追記)」



 「ひかりの輪」の宗教的活動に関する私見(2017年の追記)

                      2017年11月17日
                      大田俊寛

1.はじめに

 今から三年前の2014年11月、私は、「「ひかりの輪」の宗教的活動に関する私見」というタイトルの文書を執筆した。それは、「ひかりの輪」で行われている宗教的活動に関して、客観的・中立的な立場から評価を下してほしいという、同団体の外部監査委員会(当時の委員長は河野義行氏)からの要請に応じたものであった。同文書は現在も、「ひかりの輪」の外部監査委員会のHPにおいて公開されている。
  同文書のなかでも記したように、当時はきわめて限られた時間・情報のなかで執筆を行っていたため、判断に誤りが含まれている可能性について、少なからず危惧を抱いていた。とはいえ、あれから三年の月日が経ち、「ひかりの輪」の会員との交流も私にとって今や日常的なものとなったが、特に判断を修正するべき点が存在するとは考えていない。同文書は、「ひかりの輪」の成立経緯や思想的性質について全体的に理解しようとする際の簡便な資料となっているため、こうした問題に関心がある方々は、まずはそれを一読いただければ幸いである。

  外部監査委員会による「ひかりの輪」に対する監査結果は、団体規制法に基づく観察処分の更新手続きと同じく、三年毎に公表されている。そして今回も、外部監査委員会から私に対して、同団体における宗教的活動について評価を行ってほしいという要請があった。私はそれを了承したが、先に述べたとおり現状において、同団体の活動に関して、以前の評価を大きく変更するべき点があるとは考えていない。ゆえに本文書は、2014年に執筆された意見書の「追記」という位置を占めている。

2.2014年意見書の要旨

 私は2014年の意見書において、自分自身のオウム真理教研究、特に『オウム真理教の精神史』と『現代オカルトの根源』という二著に示されたそれに基づき、オウム真理教が無差別テロを引き起こすことになった直接的な要因として、以下の三点を指摘した。

(1)人類を「霊的に進化する人々」と「堕落して動物化する人々」に二分する世界観と、それに基づく陰謀論の提唱
(2)麻原彰晃への絶対的帰依を求める「グルイズム」
(3)人間の魂の行方をコントロールしうるとされる「ポア」の技法

  こうした三つの要因に関して、かつてのオウム真理教がどのような仕方で教えを説いていたか、また、現在の「ひかりの輪」がどのような考えや態度を示しているかについて論じた。そして、一連の事実と考察を踏まえ、「全体として言えば、「ひかりの輪」においては、過去のオウムに存在していたさまざまな問題点が適切に反省・考察されているとともに、それらを乗り越えるための新たな宗教観が探求されていると結論することができる」(p.15-16)と述べた。
  次いで、意見書の後部においては、「ひかりの輪」が提示している思想が、ロマン主義的・ニューエイジ的宗教観に属するものであることについて批判的に論評した。こうした思想には、人間の一人一人の内部に「神聖な意識」が存在することを想定し、それを引き出すためにさまざまな宗教的観念・シンボルを折衷的に用いるという特色がある。そこでは、多様な要素を一元的に融和させることが目指されるが、しかし実際にはしばしば、一元性を承認しない者に対する敵対的な意識、「神聖な意識」を獲得したという自覚に基づく独善的な優越感が生じてしまう。私は、「ひかりの輪」の思想が依然としてロマン主義的・ニューエイジ的宗教観を帯びていることを指摘し、少なくともそれらを歴史的に相対化して捉える視点を身に付けるべきではないか、と提言した(p.18)。

3.最近の三年間の諸資料

 本文書を執筆するに当たって、最近の三年間(2014年12月~2017年11月)に「ひかりの輪」によって作成された諸資料に目を通した。簡単に分類して示すと、以下の通りとなる。

(A)一般向けの書籍・記事
1.さかはらあつし・上祐史浩『地下鉄サリン事件20年 被害者の僕が話を聞きます』株式会社dZERO、2015年2月
2.上祐史浩・日垣隆『地下鉄サリン事件20年目前夜 公開対談 宗教の魅惑と狂気』「ガッキィファイター」編集室、2015年4月
3.大月隆寛・上祐史浩「いま「オウムの時代」を語りつくそう」『宗教問題11』2015年夏季号
4.宗形真紀子「虚偽多き「麻原三女本」から垣間見える"麻原イズム"復活の予兆」『宗教問題11』2015年夏季号
5.宗形真紀子「17年の逃亡の根底にあった報道・捜査の行き過ぎを問う」『宗教問題13』2016年新年号
6.上祐史浩「オカルトが生んだテロリズム それがオウム真理教事件」『本当にヤバい昭和の都市伝説大全集』宝島社、2016年3月
7.鈴木邦男・上祐史浩「鈴木邦男のニッポン越境問答 第69回」『紙の爆弾』2016年6月号
(*その他、新聞や雑誌の関連記事26本を閲読)

(B)「ひかりの輪」で用いられた教本
1.『哲学・科学・宗教 21世紀の日本の道』(2014~15年年末年始セミナー)
2.『心の安定のための人生哲学 不安・卑屈・孤独・怒りの解消』(2015年GWセミナー)
3.『心の安定のための人生哲学《第二部 実践編》心を変えて、幸福を生み出す』(2015年GWセミナー)
4.『仏教の心理学 心の三毒、智慧と慈悲』(2015年夏期セミナー)
5.『総合解説 一元の智慧 万物一体の真理』(2015~16年年末年始セミナー)
6.『新しい幸福と成長の哲学 21世紀の心の時代のために ブッダの智慧と慈悲から』(2016年GWセミナー)
7.『気の霊的科学と人類の可能性 ヨーガ行法と悟りの瞑想』(2016年夏期セミナー)
8.『総合解説 四無量心と六つの完成』(2016~17年年末年始セミナー)
9.『苦しみを滅する仏陀の思想と瞑想 四諦・八正道・四法印 マインドフルネス(念)』(2017年GWセミナー)
10.『気の霊的科学とヨーガの歴史と体系 転生思想と大乗仏教の哲学』(2017年夏期セミナー)
(*こうした教本の内容は、YouTubeでも一般公開されている)

(C)新たに追記されたオウム事件への総括文
1.広末晃敏氏『和の精神を求めて』
7.吉田恵子氏『総括』
                                                                   (*主に「オウムの教訓」のHPに掲載)

4.評価と追記

 すでに述べたとおり、「ひかりの輪」の宗教的・思想的性質に関して、私自身の判断に大きな変更点はない。念のために繰り返せば、「ひかりの輪」においては、かつてのオウム真理教のあり方に対する反省が、きわめて真摯かつ徹底した仕方で行われている。現会員が、麻原彰晃を依然として崇拝しているという事実も存在しない。また彼らは、無差別テロを含め、暴力的な手段によって社会を変革しようとする行為に、強い悔悟と嫌悪を抱いている。
  同時に、「ひかりの輪」の基調となっている宗教観が、ニューエイジ的なそれであるということについても、大きな変化は見られない。それは特に、「ひかりの輪」において、クンダリニー・ヨーガの実践に代表されるような「気の霊的科学」の探求や、輪廻転生・死後世界の実在に関する考察が続けられているということからも見て取ることができるだろう。

  以上を確認したうえで、先に挙げた「最近の三年間の諸資料」に関して追記しておきたいことは、次の通りである。

(1)ニューエイジ的な宗教観に対する慎重な態度
 「ひかりの輪」においては、さまざまな点でニューエイジ的な宗教観が残存している一方、オウム真理教の失敗に対する反省から、何らかの思想や考え方を盲信すること、単純な極論に陥ることが、慎重に戒められている。各教本の冒頭に収録された注意事項には、「それらの宗教の思想に関して、盲信を排除し、理性に基づいて研究・検討」すべきことが記載されている。具体的な一例を挙げれば、ニューエイジ的・スピリチュアル的な思想においては、輪廻転生や死後世界の実在を信じることが、その世界観の大きな前提となっていたが、これに対して「ひかりの輪」では、輪廻転生を信じることに対するメリットとデメリットの双方が列挙され、盲信に陥らずに「中道」を進むべきである、という思索が示されている(B-6、p.38-40)。
  また、「ひかりの輪」の会員の一人からは、新たな著作として、クンダリニー・ヨーガがもたらす諸現象(「クンダリニー症候群」に対する批判的な考察を行った一書を執筆中であることを伺っている。オウムの反省の一環として、今後もそのような慎重な思索が積み重ねられてゆくことを期待したい。

(2)内観に基づく過去の反省
  オウム事件、およびそれを引き起こした諸原因に対する反省は、「ひかりの輪」において現在も続けられており、廣末晃敏氏のブログ(C-1)にも示されているように、その際には、外部監査委員(犯罪者更生・被害者学専門の大学名誉教授)が指導する「内観」のトレーニングが、大きな役割を果たしている。外部の有識者が、オウム事件の総括や再発防止に力を貸して下さっていることに対して、改めて敬意と謝意を表しておきたい。

(3)アレフの内情に関する知見
 「ひかりの輪」が積極的な情報公開を行っているのに対して、オウム真理教の直接的な後継団体であるアレフは、その内情を知ることが難しい状況が続いている。「ひかりの輪」の会員が執筆した記事や総括文には、両団体が袂を分かつ経緯を含め、オウム事件以降のアレフの内情が具体的に記されており、私のような外部の研究者にとっては、大きな価値のある情報となっている(特にA-4、C-2・3・5)。今後も、オウム事件やアレフ問題の解決に向けて、冷静な対話者、情報提供者としての役割を果たしていただければと考えている。

(4)大きな失敗を犯した人間が、どのような形で社会に復帰するか
  かつてオウム真理教の信者であった人々が、少数とはいえ「ひかりの輪」に集い、依然として宗教的活動を続けていることに対して、社会からは、厳しい非難や批判を含め、さまざまな意見が寄せられている。その根本的な是非に関しては、会員自身の意志、そして社会からの評価に委ねられるべき事柄であり、私個人の見解をここで表明することは控えたい。
  とはいえ、「ひかりの輪」における思索や活動の原点の一つが、過去に大きな失敗を犯し、消すことのできないスティグマを背負った人間が、説明責任に応えながら、社会のなかでいかに生き延びてゆくかということに置かれていることは、疑い得ない事実である。上述の諸資料(特にA-8)からは、そのような問題意識をさまざまな点において感じ取ることができた。そしてこうした問題は、原理的に、スティグマを背負った当事者の側のみで解決しうるものではない。社会の側においても、彼らを再び受容してゆくためのプロセスや制度について、考察を重ねる必要があると思われる。

 以上、2017年11月の追記として公表する。
(掲載 : 2017年12月24日)
 
ひかりの輪・外部監査委員会は、オウム真理教事件再発防止の観点に立ち、
ひかりの輪の団体運営が適正になされているかを外部から監査するために、2011年12月17日付けで発足した3人以上の外部監査委員からなる委員会です。

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